「星の王子さま」(サン=テグジュペリ)

全編これ「生き方の書」

「星の王子さま」
(サン=テグジュペリ/河野万里子訳)
 新潮文庫

エンジンの故障で飛行機を
砂漠に不時着させた「僕」は、
そこで金色の髪の
小さな男の子と出会う。
彼は星を旅して
地球にたどり着いた
「王子さま」だった。
彼は「僕」に語りかける。
自分の星と自分が巡ってきた
いくつかの星について…。

説明する必要もないほど、
人口に膾炙した作品であり、
名作中の名作です。
でも、多くの方は子ども時代に
読んだきりではないかと思います。
私は大人こそ読み味わうべき作品だと
認識し、三冊ある文庫本
(河野訳・池澤夏樹訳・倉橋由美子訳)を、
一年に一度くらいずつ
手に取るようにしています。
すると、
生き方に示唆を与えるような文言に
いくつも気付かされます。

王子さまの住んでいた小さな星では、
バオバブの芽をすぐ抜かなければ、
その成長が星を破壊してしまいます。
「仕事には、先延ばしにしても
 だいじょうぶなものも、
 たまにある。
 でもバオバブの場合は、
 ぜったいに
 取りかえしがつかなくなる。」

私たちの日々の仕事(職業上の
ものだけでなく、
人生の中で成すべきこと)もまた、
その多くは「先延ばしにしては
いけないもの」であり、
耳の痛い言葉であると感じます。

王子さまは星に残してきた
花のことを思い出し、
しみじみと語ります。
「ぼくはあのころ、
 なんにもわかっていなかった!
 ことばじゃなくて、
 してくれたことで、
 あの花を見るべきだった。」

親をはじめとする大切な人を
花にたとえているように
思えてなりません。
その人が話すことば以上に、
その人が何をしてくれたかを
冷静に判断しなくてはいけないという、
当たり前でありながらも
忘れがちなことを
再発見させてくれます。

その花は王子さまにこう語ります。
「蝶々とお友だちになりたかったら、
 毛虫の二匹や三匹は
 がまんしなくちゃね。」

人は人間関係に行き詰まると、
自分に害を為す人間を恨み、
それらを排除しようと考えます。
しかしそうした人間も含めての
世の中なのです。
人間関係を閉ざしてしまえば、
自分を良い方向に導いてくれる人間とも
出会えなくなってしまいます。

キツネが王子さまに諭す
「ものごとはね、
 心で見なくてはよく見えない。
 いちばんたいせつなことは、
 目に見えない」
だけが
有名になりすぎた感がありますが、
全編が「生き方の書」となり得る
作品なのです。

中学校2年生あたりに
薦めたいと思います。
そしてそこからの長い人生の
節目節目で読み味わうことができれば、
この本はその人の生き方を
一層豊かなものにしてくれると
確信しています。

(2020.11.10)

jean pierre GIRARD によるPixabayからの画像

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